株式会社カヤック
村上 雅哉氏

村上 氏にインタビュー

村上氏のキャリアとバックグラウンドについて

大阪大学で情報科学の博士号を取得。アカデミアには進まず、2019年にゲーム事業部のアシスタントプロデューサーとしてカヤックに入社、ソーシャルゲームの開発チームに参画しました。その後、起業家支援事業や他社への出向など、カヤックらしく短いスパンで多様な案件に関わったのち、2020年からはゲーム事業部に戻りハイパーカジュアルゲームのチームに入りました。2022年からゲーム事業部のプロデューサー・事業部長を兼任しています。

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株式会社カヤックについて

1998年に合資会社カヤックとして設立。7期目の2005年に株式会社カヤックとして事業を再スタート。自らを「面白法人」と称するカヤックは、世の中を面白くしたり、周りが面白く生きることに貢献したりするために、「つくる人を増やす」ことを経営理念に掲げています。ブレスト文化による発想力・企画力、高い技術力を強みにして、ゲームアプリや広告・Webサイト制作を始め、最新テクノロジーと独自のアイデア力を掛け合わせた新しい体験を提供しています。

カヤックに入社した経緯、担当している業務についてお聞かせください。

博士課程で今後の進路を考えるにあたって、自分にとっての幸福は何か自問自答したときに、研究のようにクローズドな環境で黙々と働くよりも、色々な人と共同しながら働くことに幸せを感じるのではないかと考えました。人との接点が多く、リーダーシップが発揮できる、さらに、新しいことにチャレンジして、新しい感動や景色に触れることができる環境に身を置いて人生を豊かにしていきたいという思いがありました。そこで、そうした条件似合う企業を探していた際に、カヤックを知りました。ゲームだけでなく色々な事業を行っていてチャレンジがしやすく、規模も300人程度でスピード感があり見通しも良さそうだと思い、相性の良さを感じました。カルチャーの面でも「まず、自分たちが面白がろう」「何をするかより、誰とするか」といった価値観に魅力を感じ、入社を決めました。場所が鎌倉というのも、魅力的なポイントです。

カヤックに入社し、最初はゲーム事業部に所属し、ソーシャルゲームのアシスタントプロデューサーからキャリアを始めました。その後は、ゲームではない別の案件も担当しながら、入社から約1年後に、再びアシスタントプロデューサーという形でハイパーカジュアルゲームのチームにジョインしました。ハイパーカジュアルゲームはプロダクトが小さいこともあり、皆が何でもやるジェネラリストのようなチームです。その中でゲームの企画立案からディレクション、広告クリエイティブの制作から広告運用、データ分析など一通り経験し、2022年からはゲーム事業部のプロデューサーと事業部長を兼任しています。

アカデミアでの経験が現職に役立っていることはどういった点でしょうか?

アカデミアでの研究は基本的にロジカルシンキングの極みのような所があります。先行研究を調査し、仮説を立てて、実験・観察をして、また仮説を立てることの繰り返しです。エビデンスを基にロジックを組んでいく考え方は、本質的にはビジネスパーソンとしても活かせる考え方だと感じています。特に、カジュアルゲームのプロダクト開発での、マーケット調査、仮説立案、プロトタイプでのテストという一連の流れは、アカデミアでの活動と通じるところがあると感じています。ますます不確実性・不透明性が高くなってきている昨今の潮流では、ハイパーカジュアルゲームに限らずビジネスにおいては小さくつくって試すというリーンスタートアップ的な考え方が肝になるし、そこの基礎力をアカデミアで叩き込まれたのはよかったです。

カヤックは給料の+αをサイコロの出た目で支給するなど、ユニークな会社だと思います。組織の構造や構成、社内で重要視されていること、カルチャーなどで特筆すべきことをお聞かせください。

仲間を大事にしていることが一つの特徴です。多様性のある会社なので癖がある人は多いですが、それと同時に一緒に働きやすい雰囲気もあります。その背景には、官僚的な組織構造は極力避けて、360度フィードバックの仕組みなどを取り入れてフラットな組織づくりに努めていることがあります。会社の3代表達もあだ名で呼ばれ親しまれています。また、問題や課題が発生したときには一部の人が考えるのではなく、ブレスト文化によってみんながアイデアを出し合うことで、自分ごと化し、主体的に考えることを促進していて、非常に良いカルチャーだと感じています。ハイパーカジュアルゲームのチームでも、あれこれ意見を言い合いながらゲームを作っているときが一番面白いです。

あとは「面白法人」と称していますが、面白い法人というわけではなく、面白いものをつくるためにはまず、自分たちが面白がらなければならないということを大事にしています。「面白がっている人達がつくっているものだからこそ、面白い物が生まれてくる」「逆に面白いものが生まれてきたとしても現場のメンバーが面白がってなかったら、それはよくない」という思想があります。

ハイパーカジュアルゲーム事業の立ち上げから現在までの経緯についてお聞かせください。

弊社では「ぼくらの甲子園!ポケット」や「キン肉マンマッスルショット」といった7周年を超えるヒットタイトルがあり、2010年代後半にかけてソーシャルゲームをもっと作ってヒットさせていこうという流れがありました。
一方で、ソーシャルゲームの市場も競争が厳しくなり、意図したような成果がでない時期がありました。

また、ソーシャルゲームは開発規模が大きくなり、開発期間も長くなっていったため、世の中的にもゲームの開発現場は苦境だということが言われ始めていました。社内でも、みんながより面白く主体的になれるゲームづくりをしたいという想いや、ディレクターだけでなくエンジニアやデザイナーなどのクリエイターのボトムアップな発想でゲームづくりをしたいという考えが強くなって来ていた頃でもあります。

そんな中で、2017年頃からアプリ広告やアドテク技術の発達を背景に、VoodooやKwaleeなどを筆頭としたハイパーカジュアルゲームの市場が拡大してきました。
そこで、このハイパーカジュアルゲームというフレームを使えば、自分たちが面白いと思うゲームを小さくつくって市場でテストしてチャレンジしてみるということができ、面白く主体的にゲームをつくりたいという思いとも上手く合致するのではないかと考えたのがハイパーカジュアルに取り組み始めたきっかけです。

ただハイパーカジュアルも作ってすぐ当たるという物ではないので、なかなか厳しい結果が続くこともありました。
ハイパーカジュアルのチーム自体もうまくいくのかという疑念がうまれてきたくらいの時に「Park Master」のアイディアが生まれ、プロトタイプテストをしてみたところCPIもLTVもよい結果が出て、ローンチできると判断したのが事業として成立するようになった先駆けです。その後も試行錯誤を繰り返しながら「Noodle Master」や「Paint Dropper」といったタイトルをつくることができ、年に3〜4本程度のペースでコンスタントにタイトルを出せるようになっています。私が入社した頃はゲーム事業部もソーシャルゲームが主軸だったのですが、今ではソーシャルゲームとハイパーカジュアル両方でゲーム事業を引っ張っていくような形になっています。

ゲームを長く遊んでもらうために、ユーザー体験やゲーム作りの中で意識していることについてお聞かせください。

ハイパーカジュアルゲームの運営企業ならどこでもやっているような基本的なデータドリブン開発は弊社も押さえています。ハイパーカジュアルは多くの人に遊んでもらうので、サンプル数が潤沢にあり、統計的な手法でテスト、実験が可能というところがあると思います。ゲームの中のシステムにしても、広告にしても、アプリのアイコンなどにしても、ABテストをしながら、広告のCPI、ゲームのLTVやリテンション、プレイタイムといったKPIが改善しているかどうかしっかりデータと向き合いながら開発をしています。一方で、弊社はどちらかと言うとアイデア勝負の会社なので、ブレストで思いついた「こういうことをやったら面白いのではないかな」というアイデア力を武器にどんどん取り組んでいくところが強みかもしれません。

ハイパーカジュアルゲームのマネタイズ・UAを成功させる秘訣などあればお聞かせください。

UAにしてもマネタイズにしても、やった方が良い事がいくらでもある中で、重要なところから押さえていこうとすると、ゲームそのものに向き合った方が、結果的にCPIやLTVといった各KPIも改善されるのではないかと考えています。運用を続ける上でアドテクなどを駆使したテクニカルなアプローチももちろん重要だとは思うのですが、それよりも、ゲームのコアの部分を分かりやすく魅力的に伝え、インストールしてからは長く遊んでもらうことを念頭に置いています。より影響度の大きいところから順番に着手している結果、UAもマネタイズも基本に忠実にという風になっています。

カヤックのハイパーカジュアルゲームは、米国など海外でも首位を獲得し、上手く海外進出ができています。海外で成功するためのアドバイスや、米国と日本で流行っているゲームの違いについてお聞かせください。

グローバル展開に関しては、最初から日本は世界の中の一部としてしか捉えておらず、ハイパーカジュアルゲームのテストは、日本ではなくアメリカで行っています。先ほどの、重要なところから攻めるという考え方でいえば、アメリカが圧倒的に大きい市場なので、アメリカの市場でのKPIを見る所から始めています。テストマーケットをアメリカにしているからグローバルでスケールするというのはあります。

日本や韓国、中国のモバイルのストアの状況を見ると、やはり英語圏のストアとは雰囲気が違います。英語圏のチャートにいるゲームは必ずしも日本のチャートとは重ならず、日本でしか流行ってないゲームも多いです。そういうこともあり、ゲームはこういうものだという日本人が思うゲームのイメージは、グローバルでスケールするようなゲームを作る上では足かせになる可能性があるので、そこは日本の企業は気をつけた方が良いかもしれないと思っています。

なんとなく、日本では2D系、カートゥーン調のクイズ、脱出ゲーム、育成ゲームなどがうけやすい感じはしますが、アメリカなどの海外のストアではあまり上位にランクインしているイメージはなく、海外ではどちらかと言うと3D系のものなどが多いかと思います。日本はやはり漫画大国というところもあるので、そういった独自に発達したポップカルチャーが国民の嗜好性に繋がっているのかもしれません。

ハイパーカジュアルゲームにおける市場の現状や、ハイパーカジュアルゲームのこれからについてお聞かせください。

ハイパーカジュアルゲームは、まだ新しい市場であるということもあり、比較的成長しやすい領域のように見えます。しかし、モバイルゲームやソーシャルゲームと同様、少しずつ競合が増え、リッチなコンテンツを求められるようになってきているのではないかと思います。世の中に存在するモバイル端末と人間の使える時間は限られているので、どうしてもどこかでユーザーの奪い合いに直面すると思います。

そこで、LTVが高い方がよりユーザー当たりの広告費を使えるため、ハイブリッドカジュアルのような概念が生まれてきて、広告だけではなくIAPも入れてハイブリッドでの収益化を狙うゲームが徐々に増えてきています。また、IDFA取得のオプトイン化や広告表示ガイドラインの強化などで広告価値が下がるといったハイパーカジュアルゲームにとっては逆風の流れもしばしば起こります。その意味で、少しずつハイブリッドカジュアルやカジュアルミッドコアのような方向へシフトしていくと捉えています。

また、Metaがインスタントゲームにより注力し、TikTokがベトナムでゲームのテストを行い、LINEとVoodooがコラボをし、Netflixも会員向けにカジュアルゲームを配信するなど、ハイパーカジュアルゲームがより多様なプラットフォームで展開されていくようなシナリオも考えています。また、NFTを組み込んだカジュアルゲームや、Play to Earnの領域でカジュアルゲームが発展していく可能性もあると思います。

ご自身のキャリアを踏まえて、ゲームプロデューサーとしてキャリアを始めた方、これからゲーム領域にチャレンジする方にアドバイスをお願いいたします。

ゲームは映画、本、アニメなどのエンタメコンテンツと違ってインタラクティブにプレイヤーとプロダクトが対話するところが特に面白いと思っています。元来ゲームって遊ぶのも面白いし、つくるのも面白いものなので、これからゲーム領域にチャレンジする方は、日々あくせく働く中で忘れられがちなゲームの根本の価値を大事にして、面白がりながらゲームをつくっていってもらえればと思います。カジュアルゲームは、つくりかたは工房的でサイクルも早くとても面白いのですが、ゲームとしてまだまだ、もっと深みのある面白さをつくっていく必要はあると思いますし、市場全体がそうなっていくと思うので、両側面で面白がってもらえればと思います。

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