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日本から海外への挑戦。アプリマーケターからプロデューサー職を兼任するブシロード森下氏の考えるこれからのゲーム開発

by 森下 明氏 | 2月 27, 2022

森下氏のキャリアとバックグランドについて

調査会社でのFMCG領域の市場調査、広告代理店でのモバイル広告の組織の立ち上げ、アプリマーケティングに従事。その後、複数ゲーム会社でのデジタルマーケティング担当を経て、株式会社ブシロードに参画。デジタルマーケティングチームの立ち上げを行い、2021年9月までは自社パブリッシュタイトルのデジタルマーケティングを統括。現在は、株式会社ブシロードの海外HQであるBushiroad International にてHead of Mobile として海外のモバイルビジネスを統括しています。

森下氏のインタビュー記事については、こちらをご覧ください。

ブシロードについて

トレーディングカードゲームの制作・販売を中心に各種コンテンツプロデュース業務を行う会社として2007年に設立。「ヴァイスシュヴァルツ」「カードファイト!! ヴァンガード」などを中心に事業を成長・発展させ、その過程で「新日本プロレス」や女子プロレスの「STARDOM」が参画、音楽IPとして「BanG Dream!(バンドリ!)」「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」「D4DJ」「from ARGONAVIS(フロム アルゴナビス)」などの作品もプロデュースしてきました。
現在は「IPディベロッパー」という事業戦略を掲げ、既存のIPを持続的に運用しながら、新しいIPを創造・追加していくことで、提供するサービスの本数を年々拡充しています。

中長期を見据えたグローバルでのキャリア形成

中長期的にみて、人口動態なども踏まえると日本市場はどうしても縮小してしまう市場なので、グローバルにキャリアを振らないと会社の売上利益に貢献することは難しいのではと思っておりました。
ブシロードはTCG市場の販路拡大のために早くからグローバル思考を持っておりました。そのため、グローバルの拠点としてシンガポールとアメリカの拠点があり、自然とそこで働いてみたいという意思が芽生えました。
また、一度日本の外に出て、日本を相対的に比較したかったというのもあります。「日本はよいところだ」という人も多いですが、比較しないと日本が良いのか悪いのかも判断できません。

子供の教育の観点でも、グローバルでの競争力をつけるために、グローバルを経験させることに興味を持っている方々も多いのではないかと思います。世の中の情報において、日本語で書かれている情報と英語で書かれている情報では圧倒的な差があります。
ある統計データによると、ネット上で閲覧可能な情報の約60%が英語で記載されているのに対し、日本語は2%程度だという事実があります。
言語によって最新の情報をキャッチアップするスピードが異なるだけでなく、世界で広く使われる言語を通じて多様な人とのコミュニケーションができるメリットがあると思います。そういったこともあり、私自身、子供が成人する際に価値のある言語や物事の考え方、文化的な多様性を学んでほしいという想いもあります。

全員が売上・利益の最大化を目指せる組織のあり方

Head of Mobile としてマーケティングチーム、開発チームなど全体を統括しています。複数のプロデューサーが、それぞれのタイトルの売上高、営業利益を最大化するために指揮をとっています。
その中で、どのタイトルがモバイル事業全体の売上・利益に対して感度を最も持っているかを常に私が確認しております。
イメージでお伝えすると、どのタイトルのどの変数を変動させたときに収支への跳ね返りが最も大きいかを特に注視しています。
そういった、直接的な収益性の視点に加えて、直接的な収益性以外の視点もの考慮しております。例えば、日本側からのグローバルへの投資判断とシナジーのある効果を生めないかなども踏まえて、リソース配分をしています。

組織自体が8人で構成されているというのもありますが、1人のマネージャーがPL責任を持つのは、理にかなった組織構造だと思います。
組織をマーケと開発で縦割りにすると、局所最適化に基づいた議論(例えば、マーケティング側から開発側への「ARPU向上」「継続率向上」といった要求や、プロデューサーや開発側からマーケティング側への「インストール増加」などをお互いポジショントークで要求しあう不毛な煽り合い)が起こりやすくなってしまうのではないかと思っています。

PLを分解して、階層構造で各KPIを並べてみると、開発とマーケ側のKPIは複雑に入り組んでいるので、組織を縦割りにしたとしても綺麗にKPIの責任を分けることはできないです。
そういったこともあり、縦割り組織よりも、全員が売上・利益を最大化するためにどうしたらいいか考えられる組織構造がよいのではないでしょうか。
そのためにはモバイル事業のPL責任を負うマネージャーがマーケティングと開発双方の意思決定ができる環境にすべきであり、現状Bushiroad International のモバイル組織はその環境を有しております。

プロデューサー・アプリマーケターに必要な要素分解の視点

プロデューサーは通常PL責任を持つことが多いので、売上・利益を最大化するための要素を分解して、どこの変数を変えることで売上・利益を上げるのかという考え方が必須です。売上を上げるといっても新規ユーザーの売上を上げることが必要なのか既存ユーザーの売上を上げることが必要なのかをフェーズごとにはっきりさせなければなりません。
仮に新規ユーザーの売上を上げるのであれば、「新規ユーザーの売上=新規インストール数x継続率x課金率xARPU」なので、これらの分解した4つの変数のどれを優先的に上げるべきかを考える必要があります。

それはマーケターも同じです。モバイルゲーム業界においてマーケターというと、「マーケター=プロモーション担当」というニュアンスで使われることが多い印象ですが、この定義ではプロモーション=インストール系のKPIにしか責任を負わないというスタンスを表明していることと同義です。
アプリマーケターは、アプリを用いて顧客に価値を提供することを通じて自社の売上・利益を最大化する人だと考えています。
売上・利益を最大化するのがマーケターの仕事だとしたら、利益計算やある程度の会計について理解があるべきだと思います。こうした理解があれば、事業全体として売上利益を考える役割やチームの方々と建設的な議論ができるようになります。
例えば、「インストール数を増やす必要がある」という議論がある際に、「他アプリと比べても、インストールは十分増えているが、Day1リテンションが低いから売り上げが伸びない。インストールを増やすのではなくて、リテンションをあげるべきではないか」というような会話ができるべきだと思います。

こういった利益・売上からの分解の視点は国が変わっても理解してもらえます。
Bushiroad International で、あるアプリの広告パフォーマンスの良し悪しを判断するために30日LTVの閾値が決められていたのですが、アプリの想定クローズタイミングやフェーズを踏まえて、その閾値を超えていたとしても広告を止めないと損失が出るだけだという話をしました。
ファイナンスでいうところのNPVの話をモバイルの広告投資に応用した考え方なのですが、Bushiroad International のモバイルメンバーはとても優秀なので納得してくれて、止めましょうという話になりました。
自身の担当するタイトルのPLをよく理解して事業としてコミットしているから理解してくれたのだと思います。

まとめ

もしご自身があるアプリの事業責任者だったら、限られた予算、リソースを何にどう割り当てて、どうやってKPIをリフトさせていくかという視点を持って仕事をするのがよいと思います。

新しくマーケターになった方々やこれからマーケターに挑戦していきた方であれば、自分の領域でやれるデジタルマーケティングおよびマスマーケティングというものをしっかり身につけつつも、マーケティング(≒プロモーション)で変えられるKPIが限定的であるということもちゃんと理解する必要があります。その上で、売上・利益の最大化を考えるときに自身が所属する組織上、責任を負っていないKPIが仮にあったとしても、そのKPIの責任を負っている部署に直接意見すれば良いと考えております。


そこには、セクショナリズムの壁や、仕事の範囲に関する指摘を受けることもあると思いますが、顧客への価値提供なくして、売上利益の最大化はないと思っています。顧客に価値を提供するために変えなければならないことがあり、その変えなければならないことが自身の所属する組織で責任を負っていないのであれば、責任を負っている部署に対して提案をするなり、議論の場を設けるなりして、建設的に要求を突きつけるべきです。そのような行動を通じて、自分自身のキャリアの幅も広げていくことができるのではないかと思います。

本ブログではお伝えしきれない部分は、私の著書である「いちばんやさしいアプリマーケティングの教本 人気講師が教えるスマホアプリ収益化の大原則」にて解説をしています。モバイルゲームに関わる方々、非ゲームの方々も含めてアプリマーケティングに関わる方々には参考になる点も多いかと思いますので、ぜひご一読いただけますと幸いです。Amazon のリンクはこちら